【「スキューバダイバー」自分の身を守る為の予備知識】 study-four_dからの続きです。
Q.呼吸法について
(ダイビングだけで無く、あらゆるスポーツの原点) 呼吸とは、個人の持っている運動能力を最大に高める要素を持っている。 過剰換気は、酸素過剰になる恐れがあり、体温の低下を誘うのと頭が痛くなる事がある。 --------------ここからは本格的な呼吸の話----------------- 生体が生命の維持をする為に必要な酸素(O2)を取り入れ、物質代謝の結果生じた二酸化炭素(CO2)を排出する働きを呼吸と言います。
7.ダイバーの意図的な呼吸によって引き起こされる障害(クスマウル呼吸→代謝性アシドーシスを起こす) 8.オーバーワーク、オーバーキック時の嫌気性筋運動によって発生する乳酸→乳酸アシドーシスを起こす。 9.ダイビングに於ける浮上時の呼吸法(呼吸と窒素の排出)
1〜6までの総合的な働きを呼吸と言い、総体的に説明して行きます。 呼吸器とは胸腔、肺胞、気道(鼻腔、咽頭、喉頭、気管及び分枝)を言う.
肺容積の変化(換気量)
一般的に安静時の一回換気量は約500mlであり、1分に於ける換気量を毎分換気量と言う。 深呼吸の場合は一回換気量より2500ml多く吸入出来るが、これを予備吸気量と言う。 一回換気量+予備吸気量+予備呼気量 最大呼息を行っても肺胞内に気体は残っていて、これを残気量と言う。 全肺活量とは肺活量+残気量 安静呼吸の呼息(息を吐いた時)の終わった時、肺内に残っている気体の量を機能的残気量と言い、呼吸運動の間、常に肺胞内に有ってガス交換に関与し、生理的に重要な量と言える。機能的残気量は約2000mℓ ◎安静時1回換気量は約500ml(t)であり、アメリカンレスキューではマウスツウーマウスで最初に約500ml(t)×2回を吹き込む。それ以後は1200ml(t)としている。
一回換気量の一部は鼻腔、喉頭、気管、太い気管支などに出入りするだけで肺胞には達しない、及びガス交換に関与しない空間を呼吸死腔あるいは単に死腔と言う。 この死腔はダイビングに於ける浮上時、窒素の排出にも関係をして来る。
1.拡散能 @肺胞毛細血管内皮細胞 などがあり、膜全体(拡散路)の厚さは0.2〜0.6µmで、O2、CO2、N2は膜の両側の分圧の差に基づいて自由に分散する。
分圧差が1mmHgの時の毎分の拡散量を肺の拡散能と言う。1mmHg=1Torr(トール) O2の安静時拡散能は20mℓ. 肺胞気から血液の方へ100-40=60mmHgの分圧差により、約1.2ℓ/minの摂取が可能である。安静時酸素消費量は250mℓ/min程度なので、消費量と等量のO2を摂取する為には15mmHg程度の分圧差があれば十分. CO2の拡散能はO2の25倍も大きいので、実際のCO2呼出量230mℓ/minは0.03mmHgの分圧差があれば十分となる。 ダイビングに於けるCO2の排気はO2の25倍も拡散能が大きいので排出され易いが、呼吸を一時期的にも止めている様なスキップ呼吸だとCO2が体内に留まり、体温の上昇が起きてしまい、次の呼吸(吸息時)の時、2度や3度も吸う事になり無駄な呼吸となり易い。 この拡散能は潜水を終了して浮上の時にもCO2拡散能が災いとなる為に、この項の終わりに改めて説明するものとする。 2.換気血流比 ガス交換の能率は肺胞の機能だけで決まるものでは無く、肺胞周囲の毛細血管内にある血液と肺胞気との間でガス交換をしなければいけない。つまり、肺胞と毛細血管の適合が問題となる。 肺換気量VAと肺循環血液量Qとの比を換気血流比VA/Qと言う。 Vを4.2ℓ/min、Qを5ℓ/minとすると4.2:5=4.2/5=0.84と言う比となる。換気血流比が1よりはるかに大きい時は肺胞気との間でガス交換が十分に行われていない事を示す。 逆に小さい時は血流に見合う換気が行われていない事を示すが、どちらもガス交換能率低下となる。 肺胞と肺動脈の静脈血との間に十分のガス交換が行われれば、肺胞気のO2分圧と動脈血のO2分圧とはほとんど等しくなる。 健康な人では肺胞気のO2分圧が約100mmHg、動脈血のO2分圧が95mmHgと5mmHgの較差があるが、これを肺胞・動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)と言う。 肺胞・動脈血酸素分圧較差は肺胞の血管にシャントが有る場合やO2の拡散に障害があるとその数値は大きくなる。 シャント(shunt)とは、血液が本来通るべき血管と別のルートを流れる状態の事で、又、静脈と動脈が肺循環系や毛細血管を介さず直接吻合している箇所を指して言う。肺換気血流不均等もシャントしていると言う。 1.O₂の運搬 血液の成分である血漿のO2抱合能(溶解度)は極めて小さく、38℃の時100mmHg程度のO2分圧下では0.3mℓ/㎗以上は溶解しない。この血漿中に拡散溶解したO2は速やかに赤血球内に入り、ヘモグロビン(Hb)と結合して酸素ヘモグロビンとなる。 Hb+O2→HbO2 この反応は非常に速く、血液は大量のO2を結合する事が出来る。 動脈血のO2分圧40mmHg、pHは7.4、O2分圧100mmHgの時の飽和度は98%、95mmHgの時は97%であり、ほぼ飽和している事となる。 尚、酸素分圧が70mmHg以下になると酸素の飽和度は低下し、特に60〜20mmHgの範囲では顕著に変化する。 ヘモグロビンの酸素飽和度が低下すると言う事は、ヘモグロビンは酸素を解離して放出して組織に供給している事を意味している。 ヘモグロビンの酸素解離曲線に於いて
@血漿のCO2分圧が高い HbO2+2.3-DPG→Hb-2.3-DPG+O2 結果、組織への酸素供給が増加する。
CO2の溶解度はO2よりはるかに大きいが、血漿中に溶解しているCO2は少なく3mℓ/㎗で、静脈血に含まれる55mℓ/㎗のCO2の5%を占める程度だ。 この反応は血中に於いては赤血球内にある炭酸脱水酵素によって速やかに行われる。 これは静脈血でのCO2は赤血球内に入り、H⁺とHCO3⁻を生じるが、H⁺はヘモグロビンに緩衝され、HCO3⁻は血漿中へ押し出される。 この時にHCO3⁻と入れ替わりにCl⁻が赤血球内に入る。これを塩素イオン移動という。 肺ではCO2が呼出されるので、これらの変化は逆向きに進んで行く事となり、この時、赤血球内に増加するHbO2が一種の酸として働き、CO2の放出を促進する。 NaHCO3は真空中では1/2量のCO2しか放出しないが、酸H+を加えれば全量を放出する。 NaHCO3=1/2NaHCO3+1/2CO2+1/2H2O NaHCO3+HCl=NaCl+CO2+H2Oとなる。 NaHCO3 炭酸水素ナトリウム(重曹) 水溶液はリトマス及びメチルオレンジでアルカリ性を示す。非常に弱いアルカリなのでフェノールフタレインでは色がつかない。水溶液は65℃以上で二酸化炭素を放ち炭酸ナトリウム水溶液になる。 HCl (塩化水素) NaCl (塩化ナトリウム) 血液の全CO₂の含有量は 動脈血ではPCO2=40mmHgであり、この時の動脈血の全CO2含有量は遊離CO2が3%、結合CO2が47%、合計50%になる。 血液と組織細胞のガス交換も拡散によって行われており、細胞内のガス分圧は測定出来ないが、分泌物などから見たO2分圧は20〜45mmHg、CO2分圧は50〜60mmHgと推定される。 ヘモグロビンの酸素解離曲線から明らかな様に、血液の酸素分圧が20〜45mmHgの範囲ではヘモグロビンの酸素飽和度は著しく低い為、大量の酸素がヘモグロビンから放出されて組織に供給される。 また、酸素解離曲線での勾配が急である為、酸素の供給はその組織の活動の程度によって応えている。 更に、活動組織周辺での温度、CO2、pHが変化し、前述のボア(Bohr)の効果によって大量の酸素が組織に供給される。 この様に組織に於いてはCO2分圧の上昇がHbO2からO2の放出を促進し、肺に於いてはHbO2の増加がCO2の放出を促進している。HbO2(オキシヘモグロビン/酸素ヘモグロビン) 肺毛細血管の循環時間は0.7〜0.8秒で、激しい運動の時でも0.3秒で1循環する。 血液と空気ガスとの接触は0.5秒もあれば十分平衡に達する。 拡散能はガスの種類によっても異なるが、拡散路の厚さの増大と拡散面積の縮小によって減少する。
この上の図で可笑しいとされるのは水深が深くなった場合である。 よ〜く見て欲しいのは、窒素N2の変化と体内での水蒸気圧H2Oの変化である。
地上に於いては水蒸気圧47mmHg一定とされるが、水圧下での水蒸気圧は肺以外に於いて47mmHg一定では有り得ないのだが、一定とするならば条件があるのだ。 ただし、運動量に伴ってCO2の産出も多くなる為に数値の変化は止むを得ないが、N2の数値は増加はすれど減少は無い。 この図を使った減圧症罹患の説明は減圧症の項で説明致します。 この図での比較をしたのは、人間は地上での生活によって空気中のO2、CO2、N2ガスが身体に対して圧力平衡している。(上の左図) 高い山に住んで居る方は酸素が少ない為にヘモグロビンが増える事で酸素の摂取量を補い、外圧が低い為に体内圧も平衡化へ向かう機能を備えている。 少し判り図らい説明となってしまったが、今度は地上の人間が深い海へ潜ると、外圧と同じ様に体内圧を上昇させて圧力平衡を取るが、それにも限界がある。 窒素N2の取り込みと排出(酸化と還元の変化に注意)
N2の酸化による血中アンモニア化→フリーアンモニアNH3とアンモニウムイオンNH4+.
空気は肺で曝露されて酸素O2と二酸化炭素CO2の活性ガス交換を行っているが、窒素N2も同じ様にガス交換を行っている。地上の平地での窒素N2は普段必要とされずに重要視しなかった為、不活性ガスとされた。 体の圧力順応がこれであり、この平衡化に大量の窒素N2を体内へ吸収する事となる。 肺から血液成分の血漿を介在させて体内へ取り込んだ窒素N2は、末梢の隅々まで運ばれて生体内圧の圧力平衡化される。 体内に於ける窒素N2は、アンモニアNH3やアンモニウムイオンNH4+、尿素、尿酸等に変換されて体内に分散している為、窒素N2として肺から体外へと戻す為には一定の時間が必要となる(窒化・還元作用の為) 潜降の場合は加圧浸透率と言われるが、浮上時は窒素の減衰比率とも言う。
窒素の減衰比率グラフは減圧症の項にもあります。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 呼吸運動は自動的に絶えず反復されていて、吸息筋と呼息筋とが周期的に交互に収縮をを繰り返しているが、この呼吸運動を起す為の興奮指示と抑制のインパルス信号を送る呼吸中枢が存在している。 1.呼吸中枢 呼吸中枢は心臓中枢や血管運動中枢に近い所にあって、延髄網様体中にあるが、この呼吸中枢は吸息中枢と呼息中枢とからなっていて、吸息中枢を刺激すると吸息筋へと命令の信号であるインパルスが送り出され、呼息中枢を刺激すると呼息筋へと命令の信号であるインパルスが送り出され、両者は互いに相い反して活動する。 これは、どちらか一方が興奮をすると、片方は抑制される形となる。共に興奮や共に抑制は無く、相反して向かい合っている形なのだ。 呼吸中枢は脳などに影響をされずに呼吸中枢自らが呼吸を促しているが、脊椎への神経索の切断のみで呼吸が停止する。 これ以外の部位を切っても、また傷つけても呼吸のリズムが変われど止まる事は無い。 吸息運動→肺の張力受容器→迷走神経→呼吸中枢→呼息運動の経路による反射をヘリング・ブロイエルの反射と言う。
呼吸の周期とは延髄の呼吸中枢で作られ、橋の呼吸調節中枢によって調整されており、ここに迷走神経の求心性インパルスが関与して、正常の呼吸周期が作られている。つまり、基本的な呼吸周期は吸息性ニューロンと呼息性ニューロンとの相互作用によって形成されている。 大動脈小体は大動脈弓周辺にある化学受容器で、血中のO2分圧の低下、CO2分圧の上昇、pHの低下(酸性)に反応し、求心性神経である迷走神経を経て呼吸中枢にインパルスを送る事で、呼吸運動は促進され換気量が増加する。 頚動脈小体は、総頚動脈が内外の頚動脈に分岐する部分にあり、大動脈小体と同じ機能を持っている。 求心性神経は舌咽神経であり、両側の舌咽神経を切断すると、血中のO2分圧やpHが変動しても呼吸運動には変化が生じなくなるが、唯一、CO2の分圧の変動による影響は残っている。 頚動脈小体と頚動脈洞は近くに有るが、役割が違っていて、頚動脈小体は化学受容体に対して頚動脈洞は脳への血液循環に対して血圧を検知している器官。 延髄の腹側面の外側には脳脊髄液のH⁺を検知する受容器細胞があるが、ここは神経細胞では無く、単なる化学受容器となっている。 しかし、H⁺やHCO3⁻は血液脳関門を通過し難く、血漿中のH⁺濃度の上昇は刺激とはなり辛い。 これに対してCO2は血液脳関門を通過し易いので、血漿のCO2分圧が上昇すると脳脊髄液のCO2分圧も上昇する。 CO2+H2O⇆H2CO3⇆H⁺+HCO3⁻ H2CO3(炭酸水) HCO3⁻(重炭酸イオン) 反応が右に進み、脳脊髄液のH⁺濃度が上昇して中枢の化学受容器が刺激される。
一般の体循環血漿リンパ液と脳脊髄リンパ液の成分は明らかに違う事に注意。 CO2は最も有効な呼吸中枢刺激物質であり、更に血中のO2分圧低下やpH減少(酸性化)も有効な刺激となる。 これらの刺激によって呼吸が促進されCO2呼出とO2吸入が増大し、血液の化学的性状が保たれている。 O2分圧低下やpH減少の呼吸促進効果は主として頚動脈小体などの化学受容器を介してなされるが、CO2分圧上昇の場合、中枢の化学受容器から直に呼吸中枢のニューロンにインパルスが伝えられる経路の効果が大きい。 血漿のCO2分圧が高くなると、血漿のH⁺濃度が上昇して呼吸性アシドーシスが起こる。 ここで、CO2は容易に血液脳関門を通り、脳脊髄液のCO2濃度も上昇してH⁺が産生されて、中枢の化学受容器も刺激されて過換気を起す。 頚動脈小体や大動脈小体も中枢の化学受容器も共に刺激されて呼吸が促進されCO2は呼出される。 これに対して、代謝性アシドーシスの時は代謝性異常の結果H⁺の産生は増すが、CO2分圧はそれ程高くならない。 頚動脈小体と大動脈小体は血漿内のH⁺によって刺激されて過換気となるが、血漿内のH⁺は血液脳関門を通り難い為、脳脊髄液のpHは直接の影響を受けない。 アシドーシスとはpHを小さくする要因のある状態を言うが、更にダイビングに於いて問題をはらんでいる様に取れる。 血液は通常「中性」ですが、それを「酸性」に傾かせようとする物質(=酸性物質)が体内に発生している状態を言います。 むしろ、過換気の結果、血漿のCO2分圧が低下するのに伴って脳脊髄液のCO2分圧が低下し、記述した化学反応が左に進んでアルカリ性に傾き呼吸は抑制される。 頚動脈小体や大動脈小体は呼吸を促進的に働き、中枢の化学受容器は呼吸を抑制的に作用し働く。 血中のO2分圧は60mmHg以下に下がらないと顕著な呼吸促進効果を示さないが、低酸素症はCO2の呼吸促進効果を増強する。
呼吸は脳に対してのストレスとストレスの緩和である。 気管や上部気道粘膜が刺激されると、咳やくしゃみが反射的に起こるし、咽頭に食塊が触れて飲み下し(喉に詰まり、吐き戻そうとする)反射の起こっている時は、呼吸は抑制される。 1.筋、腱、関節からの求心性インパルスは呼吸を促進する。 また、随意運動として呼吸を行う事も可能で、発声と呼吸とは密接な関係にあるが、脳の4野には呼吸筋に該当する部位は無く、錐体路は関係 この限度は血中のO2分圧及びCO2分圧によって決まるが、事前に高酸素の空気を吸ってから息を止めれば止められる時間は飛躍的に長くなる。 しかし、呼吸を止める息こらえ時間は単純に血液の化学的性状だけでなく、肺の機械的刺激や精神的な要因によっても影響を受ける。 この項での事はダイビング中に緊張の余り喉が渇き、喉がくっつく様な感じの時に吐き気を覚える場合がある。 フィンキックを止めて、深呼吸をしたり、または口を開けてうがいをする事も、喉の渇きを取る効果がある。 苦しさを放って置くとパニック等を起す原因ともなる。幾らベテランでもこの限りではない。 1) 正常呼吸 eupnea 正常な呼吸. ダイビングの指導で「深く吸って、深く吐いて下さい」と言われた場合、クスマウル呼吸となり、呼吸性の意図的なアシドーシスを誘発します。適切な言葉とは「吸う時は深く吸って、吐く時は肩の力を抜いて下さい」と言います(*^^)v 1.筋運動時の呼吸 筋運動時には骨格筋の酸素消費量は著しく増加し、組織液中のO2分圧は殆どゼロに低下する。 筋の毛細血管は拡張して、全ての休止毛細血管も血流を流す様になり、血流量は著しく増大する一方で、心臓と呼吸は促進されて血流量とO2分圧を上げようと働く。 安静時の酸素摂取量は250mℓ/min程度であるが、筋運動中は10倍以上に増大し、最大の酸素摂取量は個人差もあるが、通常4ℓ/minともなる。 運動によって要求される酸素需要量は通常で運動速度の2乗に比例して増加すると言われるが、運動を始めた直後にはCO2分圧は高くなく、呼吸中枢はすぐさま刺激を受けない。 其の為、運動に伴い筋で消費されたO2量は呼吸によって摂取されておらず、遅れて摂取する事となるが、この時に酸素の分圧差が生まれ、これを酸素負債と言う この時の酸素摂取量Aは酸素負債量と等しいとされるが、実際にはAは@よりやや多い。 尚、運動中に呼吸が促進されて、必要なO2が呼吸によってまかなわれる様になれば定常状態となる。(A参照) 運動が非常に激しい時(B参照)、酸素需要量がその人の最大酸素摂取量より大きくなる事で、酸素負債量が次第に増して、遂にその人の限度に達する所で運動を続ける事が出来なくなる。 これに対して、長距離走やマラソンでは最大酸素摂取量の大きな人ほど有利となり、速いスピードを維持して走れる。
2.呼吸困難 dyspnea 呼吸困難とは本人が息切れの苦しさを自覚しながら、努力して呼吸を行っている状態を言うが、その原因には低酸素症hypoxia、高炭酸症hypercapnia、気道の通過障害などがあり、次の指数が0.7以下になる事で判断をする。 呼吸困難指数=(最大換気量-毎分換気量)÷最大換気量 正常人の場合の最大換気量は110ℓ/min、毎分換気量は8ℓ/minであるから、指数は0.93となり、0.7以下で呼吸困難と言う。 低酸素症には @低酸素性低酸素症 この内、うっ血性、血流減少性、組織中毒性などの場合は高O2の吸入では効果が無いが、低酸素性や貧血性のものにはO2の吸入は有効である。 ※重症の肺疾患でCO2が過剰に陥っている患者では、CO2の作用は呼吸中枢を刺激するよりも、むしろ麻痺的に作用しており、O2分圧低下による頚動脈小体からの反射が僅かに刺激作用として残っている状態にある。 この様な時にO2の吸入を行うと、この反射も起こらなくなり、呼吸停止に陥る事がある。(酸素吸入の危険性) むやみやたらに酸素を吸わせる事で、それまで呼吸をしていた者まで呼吸が止まる事を述べている。 出来る限り、自発の呼吸を促す様にする。また、酸素マスクを少しだけ離した状態で吸わせて様子を見る。 この事例は、ダイバーの急浮上によって起きるエアエンボリズム等で肺に損傷を起してのCO2過剰に相当する。 明らかに急浮上による肺損傷が起きていると想定した場合は急ぎO2の吸入を行うが、呼吸困難で顔色も悪く、又、意識混濁の状態ではCO2が過剰に陥っている可能性が有る為に、O2の吸入をする場合は、呼吸停止を想定した対処をする。 健康人に1気圧の純O2を長時間吸わせても副作用は無い。 しかし、1気圧以上のO2の場合は耳鳴り、めまい、けいれん、昏睡を起してしまう。 ダイバーの場合、100%純酸素での1.6気圧以上は危険とされ、1.6気圧以下での加速減圧や窒素の洗い出し等に用いられている。 呼吸の妨げられて来た状態を窒息asphyxiaという。 酸素供給を全て絶った場合の神経組織の生存時間は下記の表の通り この項は【生理学】第6版 真島英信 著 松村幹郎 改訂 葛燒F堂 を参考に致しました。 ◎浮上時の呼吸 ここに来るまで長い事・・・(~_~;) ここまで、呼吸に対して述べて来たが、潜降に於ける呼吸に於いてはなんら問題は無い。
しかし、潜水を終わり、浮上時はどうであろうかと心配し、不安でつい首を傾げてしまう(笑) 1.ダイバーは水深に応じた高圧の空気を吸うと言うが、そのまま取り込む訳ではなく、高圧の空気に肺が暴露されていると言った方が判り易い。 これは、酸素を取り込む為のヘモグロビンの数が決まっている為で、幾ら吸っても酸素を多く取り込める事は無い。 また、血中の溶存酸素量は98%〜で、機械的に100%で有っても、生理的には100%は有り得ない。 ダイビングに於いて、人体は高圧下にさらされると酸素の分圧が高い分だけ呼吸数が減り、また心拍数も減少する事が証明されている。 ただし、緩やかなダイビングでの話であり、激しいオーバーワークでは無い時である。 では、この緩やかなダイビングに於いての状態では、呼吸数及び心拍数が落ちる事は生体的に血中の溶存酸素量を満たしている事となり、その潜水水深での恒常安定性を保って潜っていた事となる。 では、ここから浮上したとなると、周囲水深が浅くなり、レギュレーターから呼吸する酸素の分圧が下がって、頚動脈小体と大動脈小体が血中溶存酸素量を感知して呼吸数と心拍数を元のレベルまで戻そうと作用する。 深い水深での溶存酸素量を呼吸中枢が覚えている事が、この様な現象を起すのであって、水深が浅くなると呼吸数を増やす事で補おうとする。 又、補えない場合は心拍数を増やして補う。 この様な事を起さない為には体内の二酸化炭素量を増やして、呼吸中枢に認知させ、その浅い水深に於ける適正酸素量にしなければ呼吸数も心拍数も血圧も下がらないのだ。
ひどい場合は呼吸亢進・心拍亢進によって溺れる可能性がある(驚)
さて、潜水後の浮上時には、今まで体内に溶け込んでいた窒素も放出される訳で、この窒素N2の排出と二酸化炭素CO2のガス交換が相まって肺内で起きる事となる。 肺ではCO2が呼出 され、また吸息によって肺の中のO2とヘモグロビンとが結び付き赤血球内に増加するHbO2が一種の酸として働き、CO2の放出を促進 する。 H⁺+HCO3⁻(重炭酸イオン)⇄H2CO3(炭酸水)⇄CO2+H2O 浮上時の肺に於いてCO2+H2Oが排出されるが、特にHbO2(酸化ヘモグロビン)が一種の酸として働き、CO2の放出を促進する。 また、血中の動脈中CO2の85%相当分が重炭酸塩NaHCO3として存在し、静脈中でのCO2は赤血球内に入り、H⁺とHCO3⁻を生じるが、H⁺はヘモグロビンに緩衝され、HCO3⁻は血漿中へ押し出される。 この時にHCO3⁻と入れ替わりにCl⁻が赤血球内に入る。 NaHCO3=1/2NaHCO3+1/2CO2+1/2H2O NaHCO3+HCl=NaCl+CO2+H2O となる。 NaHCO3炭酸水素ナトリウム(重曹) 水溶液はリトマス及びメチルオレンジでアルカリ性を示す。非常に弱いアルカリなのでフェノールフタレインでは色がつかない。水溶液は65℃以上で二酸化炭素を放ち炭酸ナトリウム水溶液になる。 HCl (塩化水素) NaCl (塩化ナトリウム) 参考 二酸化炭素分圧と濃度及び作業気圧の関係表を掲示して置く。 ここからは呼吸中の窒素を考えると・・・ 通常の陸上生活に於いて、窒素は周囲圧に馴染み飽和しているが、周囲圧が変わる事で微妙に窒素の飽和量も変わっている。 例えば、山へ登った場合は周囲圧が下がる事で、体内の窒素分圧も下がる事で飽和を維持しようとする。 1.体内窒素分圧よりも呼気窒素分圧が下がれば、呼吸を通じて窒素が排出される。 2.体内窒素分圧よりも吸気窒素分圧が上がれば、呼吸を通じて窒素を体内へと取り込むが、飽和するまでには相当の時間を要する。 3.体内窒素分圧よりも周囲の水圧が下がれば、溶けていた窒素は過飽和となり気泡化しようとするが、体内の窒素は一気には放出されない為に気泡化は免れる。 4.地上に於いての窒素は容易に血液との液化をしないが、高圧下に於いては容易に血液の血漿と結び付き液化し、体内末梢の細胞まで運ばれる。(ヘンリーの法則) また、地上の1気圧より気圧の高い水中へ潜ると、その外気圧と体内圧の平衡を取ろうとするが、地上以上の高圧下になるとヘンリーの法則に従い、窒素は容易に水素イオンH+と反応して血中アンモニアとなり、血漿との液化を図る事で、大量の窒素分(血中アンモニア)を体内に取りこむ事となる。 逆に浮上の際は、門脈〜肝臓を経由して生体生成ガス化→マイクロバブルスとなり→下大静脈→心臓→肺に於いて窒化・還元されて窒素N2となり排気されるのだが、吸収する時より排出の方が時間が大幅に掛かり、体内窒素圧より、吸気圧が低く過ぎると体内窒素圧の圧力の方が大きくなり過ぎて過飽和となり細胞内組織の閉塞、毛細血管閉塞、全身の骨格や筋肉、及び脳を含めた末梢血管閉塞によってT型・U型の減圧症を起す事となってしまう。 潜降時、窒素による障害は一般的には無いが、潜水水深が30mを超えるダイバーには窒素による窒素酔いと言われる症状が現れる場合がある。(ダイバー特有の高アンモニア血症) では、潜水目的を終了し、浮上中の窒素の排出による高気圧障害や減圧症を問題とする為に 、どの様な呼吸の仕方・方法で安全に浮上出来るかを述べて見ると・・・ 浮上時の呼吸とは・・・ 浮上時、一回の吸気量は500〜1000mmHg位であり、二酸化炭素と酸素のガス交換には十分な量なのだが、ここに窒素の排出が係わって来る事での低酸素的な息苦しさが起きてしまう。 一番判り易いのは、二酸化炭素CO2も窒 素N2も共に火災時の消化剤(窒息)としての利用が証明している。 また、低酸素的な息苦しさには呼吸中枢の高酸素要求のなれも関係している。 浮上時に体内窒素圧と呼吸(周囲圧)内の窒素圧の低下によって、肺へ向かって連続的に放出される窒素は、肺の死腔まで埋めてしまう事となるが、無意識に息を止めていると、肺に出ようとしていた窒素はそのまま再循環してしまう事となる。 この様に放出窒素の体外排出を促す事で、極力だが再循環をさせない事に気を使わなければいけない。 では、この排出を手助けする気道の確保とは、緊急時の浮上の方法と同じ※なのは偶然ではあるまい。 ただし、連続して顔を水面に向けるのでは無く、浮上時に一定の時間の間隔で気道の開放を行う。 又、15m以浅では数箇所のストップポイントを設けるか、「変則的変速浮上法」によって体内窒素圧と周囲圧との圧差を大きくしない事に心掛けるべきなのだ。(※下に解説あり.) 圧差とは潜水時間内に体内に蓄積された体内窒素が、浮上する事で体内窒素圧平衡が放出側に傾き、体外に出ようとする。 しかし、組織や体循環、呼吸によって緩やかな放出となってしまう為、ゆっくりと浮上しないと体内窒素の放出圧と体外の水圧及び吸息時の窒素ガス圧の差が大きくなる事で、体内組織内及び毛細血管の静脈側で窒素ガス泡が形成され血液塞栓が起きる。 減圧症の発症であるが、静脈型と動脈型とがある。間違った浮上と呼吸によって引き起こされてしまう。
※ ここで言う「体内窒素圧」とは体内での血中アンモニアを指していますが、解釈は窒素と同じで、浮上に際して飽和→過飽和へと向かいます。血中アンモニアの過飽和とは高アンモニア血症化を指し、浮上時に脳へのアンモニア障害によって呼吸、心拍数、判断力、運動・体反射能力、思考力・記憶力等に異常な問題が起きる事を指しています。 この件は「減圧症」の項で述べる事とする。 空気塞栓症(エアエンボリズム)は呼吸をせずに息を止めて浮上した事による肺破裂や空気による動脈塞栓を作る致命的障害であり、初心者に発生し易い。 また、浮上時の減圧症誘発を引き起こす可能性がある。 @浮上時の呼吸の仕方は緊急浮上法と良く似ている!
Y.緊急浮上法を覚えよう! Aゆっくり浮上の目配りと、気道の確保! B吸息で吸った空気は肺に溜め込むのでは無く、少し吐いて60〜70%程度とする。 ただし、浮上時に血漿内に溶融介在してH⁺+HCO3⁻(重炭酸イオン)⇄H2CO3(炭酸水)⇄CO2+H2Oの化学反応の過程で急な高分解が起きた場合はこの限りでは無いが、CO2が災いするのでは無くHCO3⁻(重炭酸イオン)やH2CO3(炭酸水)が関わっている可能性がある。(この説明は減圧症の項にも書き込んで有りますが、筆者の自説です)
☆高濃度酸素呼吸による長所と短所! ◎この項での呼吸生理学と減圧症の因果関係は「減圧症」の所で詳しく再展開致します。 呼吸の項の最後に、ダイビングに於ける筋疲労によって今まで説明していた項目に付記しなければいけない部分が出て来た。 嫌気性代謝による乳酸の産生が呼吸のリズムを崩すからだ! 下記の図を良く理解して貰いたい。 静脈に於いてpHの低下が起こり、更に血漿中のCO2の増加が起きるのだ。 当然として静脈中の酸素濃度O2の低下が起きて、換気亢進が進むが、本来の換気亢進は肺胞換気量が増し、肺胞気のCO2分圧が低下している状態を言うのだが、この場合はCO2の分圧が増加し上がり過ぎている為、肺胞気のCO2が正常呼出(排出)されずに血漿中に残ってしまう。 結果として、O2の正常取り込みが出来ずに呼吸の亢進から頻呼吸へと進んでしまうのだ。 とどのつまりは過呼吸へと進んで行くが精神と身体疲労的呼吸の苦しさが起きてしまう。 乳酸アシドーシス 呼吸数が増えるとCO2が体内から排出される。 その結果、血中のCO2が減少して、pHが上昇する。これを呼吸性アルカローシスという。 この内因生理的な発現から起きているものと、呼吸中枢からの抑制と制御によるアンバランスの呼吸は長く続くとは思わない! →→→→→筋疲労の原因を止めなければ、熟練老練なダイバーと言えどもパニックや溺れ等、身体への悪影響は計り知れない。(;一_一) ◎呼吸関連としてオーバーワーク参照 ◎呼吸でのトラブル・・・本文に記載済み! 【「スキューバダイバー」自分の身を守る為の予備知識】 study-four_eからstudy-four_fへ |